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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(オ)791号 判決 1979年3月15日

上告人

原口幸親

外二名

右三名訴訟代理人

喜治榮一郎

被上告人

宗鉄土地建物株式会社

右代表者

石川尹皓

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人喜治榮一郎の上告理由第一点、第三点、第四点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠関係及び説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

原審が適法に確定したところによれば、(1) 上告人原口の先代は、昭和二〇年四月二一日、被上告人から本件土地を含む土地上にある五戸建一棟の建物床面積四九坪四合七勺(163.53平方メートル)のうち床面積が約一〇坪(33.05平方メートル)、敷地面積が約一三坪(42.97平方メートル)ある建物部分一戸を賃借したが、同年六月一五日、右建物全部が戦災により焼失した、(2) そこで、上告人原口の先代は、被上告人から、右建物部分の賃借に際して差し入れていた敷金の返還を受けるとともに本件土地の隣地にある別の建物を賃借して居住したが、昭和二三年三月ころ、右建物を訴外辰巳新太郎に転貸し、みずからは右罹災焼失前の賃借建物部分の敷地を含む約三〇坪(99.17平方メートル)の土地上に建物を建築したうえこれに移り住み、事実上右土地部分を占有した、(3) 次いで、上告人原口の先代は、同年八月三〇日被上告人に到達した内容証明郵便をもつて、右占有にかかる約三〇坪(99.17平方メートル)の土地について罹災都市借地借家臨時処理法(以下「処理法」という。)二条一項の規定による借地申出をし、これに対して被上告人から法定の期間内に借地申出を拒絶する意思表示をされたが、そのまま右土地の使用を継続してきた、(4) 上告人原口の先代は、罹災焼失前の五戸建一棟の建物の状況したがつて右占有にかかる土地の範囲が罹災焼失した賃借建物部分の敷地の二倍を越えていることを知りながら、前記のように、まず建物を建築して事実上土地を占有したうえ、右土地についてこれを不可分一体のものとして借地申出に及んだものである、というのである。

右事実によれば、上告人原口の先代は、被上告人から、罹災焼失した建物の賃借に際して差し入れていた敷金の返還を受け、しかも新たに別の建物を賃借しながら、罹災焼失前の賃借建物部分の敷地面積の二倍を越える土地上に一方的に建物を建築して事実上右土地を占有したうえ、右土地についていわば事後承諾を求める形でこれを不可分一体のものとして処理法二条一項の規定による借地申出をしたものとみられるのであつて、このような事情がある場合には、被上告人は、建物所有の目的でみずから右土地を使用する必要がないときでも、処理法二条三項所定の正当な事由があるものとして、右借地申出を拒絶することができるものと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(藤崎萬里 団藤重光 本山亨 戸田弘 中村治朗)

上告代理人喜治榮一郎の上告理由<省略>

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